「ロバとネミーヨ」
世界童話傑作選
嘘です
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むかしむかし、あるところにネミーヨという青年が暮らしておりました。
ネミーヨはたいそうな働き者で周囲からの信頼も厚く、日々平和に働いておりました。
そんなある日の夜でした。ネミーヨが寝ていると、どこからともなく「ヒーホー、ヒーホー」と微かな鳴き声が聞こえてくるではありませんか。
目覚めたネミーヨは、寝ぼけまなこで明かりを手によたよたと声のする方へと歩いて行きました。
「おお、どうしたんだいお前」
ネミーヨがついつい声をかけてしまったのも仕方ありません。なんと声の主はボロボロに傷ついたロバだったのです。
見るに見かねたネミーヨは、さっきまでの眠気はどこへやら。家に飛んで帰ると救急箱を取ってきました。
立つことも出来ずにぐったりしているロバを、ネミーヨは懸命に手当てしました。
ネミーヨの手当てのかいあって、日が昇る頃にはロバはすっかり元気になりました。
元気に歩きまわるロバを見て、安心しきったネミーヨはうとうとしてきました。なにせ夜中に目がさめてから一睡もせずにロバを手当していたのです。
ロバの足音を子守唄に、ネミーヨはまどろみの中に沈んでいきました。
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ネミーヨが目を覚ました頃には、すでに東の空が茜色に染まっていました。
寝方が悪かったせいか体中に痛みを感じながらネミーヨが起き上がると、ちょうどネミーヨを呼ぶ声が聞こえてきました。
声の主は近所のおじさんでした。ネミーヨを見かけないのを心配に思って、わざわざ探しに来てくれたのです。
いったい今日はどうしたんだ、と心配するおじさんに、ネミーヨは昨夜のことを話しました。
「そうか、それはいいことをしたな。どれ、お腹が減っているだろう。夕飯の準備もしていないだろうし、うちで食べて行かんか」
実際その通りでした。夜中に目がさめてから今まで、ネミーヨは何一つ飲み食いしていなかったのです。お腹はペコペコ、喉はカラカラ、体は痛いとそれはもう散々です。
それでも、不思議と辛さは感じませんでした。自分が手当したロバはきっと元気に持ち主のもとに帰っていっただろう。そう思うだけで、ネミーヨは満足していたのです。
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それからしばらく経った日のことです。
その日は街の広場がいつになく騒がしく、ネミーヨもつられて様子を見に行きました。
するとなんということでしょう。このあいだのロバがいるではありませんか。
しかもそれだけではありません。ロバの隣には王様らしき人が立っています。
「つい先日、このロバを治療したものを探しておる。ほうびをとらせるゆえ、遠慮せずに申し出でよ」
王様が直々にロバを治療した人を探しているというのです。よほど大切なロバだったのでしょう。
しかし誰も名乗り出ません。そう、ネミーヨまでも。
まさかそんな、あのロバが王様のロバだなんてにわかに言われたところで一体誰が信じましょう。ネミーヨも突然の事に目を白黒させています。
そんなネミーヨのところに、ロバが歩いてきました。なんと、ネミーヨのことを覚えていたのです。
ほんの半日にも満たない時間しか一緒にいなかったというのに。
「そうか、そうか、おぬしであったか。こやつは賢いロバでのう。連れてきたかいがあったものじゃ」
王様が声をかけると、お供の兵隊たちがぞろぞろと出てきました。
あっけに取られているネミーヨを後目に、あれよあれよという間にネミーヨの家にほうびが運び込まれ、満足した王様は帰って行きました。
その後、なんだかんだでネミーヨは幸せに暮らしたそうです。
めでたしめでたし。
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言い訳はしません